朱家角とプライベートダイニングのこと
上海近郊にある水郷・朱家角について、All Aboutの記事をアップしました。
記事では紹介できなかった食事についての話をこちらで。
朱家角で働いている人と知り合いになり、「おいしい朱家角料理をご馳走するから食べに来て」と声をかけてもらいました。
訪ねてみると案内されたのはお店ではなくオフィスの中。
上の階に上がると、中華の回転テーブルが置かれたレストランのような空間がありました。
出てくる料理は朱家角名物が中心。菜心炒めに扎肉、大根と豚肉の細切り入りチャーハン。野菜も肉も新鮮! どれも素材の味を生かしたシンプルな料理です。水郷の料理とは思えない洗練感もありました。
それもそのはず。シェフは上海の某有名高級レストランで働いていた料理人。その日に迎えるお客さんのためだけに献立を考え、とれたての地元の食材を仕入れて腕をふるってくれるのです。水もすべてきれいに浄化したものを使っています。
ただ、会社のお抱えシェフによるプライベートダイニングだそうで、残念ながらレストランとしては営業していないとのこと。ああ、普通に行きたいのに。
会社にプライベートダイニングがあるなんてうらやましい。
最近、上海でおいしいと評判の中国料理はこういったプライベートなスタイルが本当に多いです。
レストランであっても地元メディアにもほぼ載らず、口コミのみ。レベルには結構差がありますが、とにかく流行しています。直接の知り合いでないと予約ができないところがほとんど。外国人にはハードルが高い。
上海の美食家たちは「どこで食べるか」ではなく「誰に作ってもらうか」を一番に考えます。料理人を指定してその席のために料理を作りに来てもらうこともしばしば。双方に信頼関係がないと成立しません。
逆に言うと、レストランで高いお金を出しても、すごくおいしいものにありつけるかが確実ではないのです。人の多い中国では仕方がないことなのでしょうか。
富裕層だからといって本当においしい料理を食べているとは限らないし、美食家といわれる人たちが必ずしも富裕層とは限らない。それが上海の現状です。
上海灘のレストランが移転オープン
ファッションブランド上海灘(SHANGHAI TANG)によるレストラン「上海灘カフェ」が、以前と同じ新天地エリアに移転オープンしました。
ヴィヴィッドな色合いのインテリアでまとめられた一軒家レストランであることは前と同じですが、それ以外はかなり変わった印象。
1階は6部屋の個室、2階がメインダイニング。2階は天井が高く、陽の光がよく差し込む明るい空間になりました。
(写真提供/上海灘餐廳)
個室にはジャッキー・ツァイによるアート作品が。アレキサンダー・マックイーンのFloral Skullを手がけたことで知られる、上海生まれの若手アーティストです。
ガラスではなく布張りの回転テーブル。
一番変わったのは料理。
以前はモダン広東キュイジーヌのイメージでしたが、オリジナル上海料理になり(シェフは上海人ではないそうですが)、味がどちらかというと全体的にこってり系になったような。盛り付けは相変わらず華やかです。
なかでも酔っ払いエビ(紹興酒漬けのエビ)のプレゼンテーションはインパクト大。上海料理の定番メニューですが、エビが氷の山を登っているような姿で盛られ、ドライアイスがバーッ。これが結構ウケているようです。お昼からオーダーして写真を撮る人多数。
10年ものの紹興酒に浸かったエビが氷の山に。128元。
行くならランチタイムがおすすめ。リーズナブルな点心が揃い、祝日以外は2割引になります(個室は除外)。日替わりで特価の12.8元になる点心もあります。お茶代も6元という安さ。
新天地エリアで一人80~100元くらいで飲茶ランチができるお店は貴重です。
ここ数年流行しているトリュフ入り蒸し餃子。このほかエビ蒸し餃子、春巻、野菜炒めあたり、点心メインのシンプルなオーダーがいいかと。
今のところカフェタイムはなく、ランチとディナーの営業のみ。
上海灘餐廳(SHANGHAI TANG CAFÉ)
黄浦区黄陂南路373号
TEL:021-6377-3333
営業時間: 11:00~14:00、17:00~22:00
サムスンGalaxy S6と中国の新鋭ファッションブランド
中国でもサムスンのGalaxy S6、Galaxy S6 edgeが発売されました。
公式お披露目イベントのほかに、ファッション関係者などを招待し、中国の新進デザイナーズブランド「deepmoss」とコラボしたプレゼンテーションも行われました。場所は上海の有名セレクトショップ「棟梁」。
新機種のデザイン性をアピールするため、サムスンはニューヨークやパリでもファッションとからめたイベントを開催しているそうです。
韓国からサムスンのイ・ヨンヒ執行副社長が来ました。流暢な英語でスピーチ。
deepmossは4月上旬から中旬にかけて行われた上海ファッションウィークで印象深かったブランドの一つ(全部のショーは見ていませんが)。デザイナーのディド・リウはまだ27歳! ロンドンでデザインを学び、一昨年ブランドを立ち上げたばかりの新進デザイナーです。ボタンの位置、裾のラインや刺繍などのディテールが個性的。服を着たときの布の膨らみ方などがどこかワイズを思わせ、個人的にもかなり気になりました。
(写真提供/棟梁)
期間限定で設置されたdeepmossのショールームにて。
正直、このイベント自体はモデルがスマホを持ってポーズをとっても・・・うーん、という感じでしたし、Galaxy S6とS6 edgeの宣伝になるのかは不明な気がしましたが、サムスンがもう既にこの若手デザイナーに目をつけていたことは驚き。
会場となったセレクトショップは中国人と欧米人のジャーナリストでいっぱいでした。
中国ではここ最近、海外でファッションを学んで帰って来た人が毎年のようにブランドを立ち上げています。ヨーロッパのコレクションに参加する人も増え、ディドさんのほかにも力のある新鋭デザイナーがぱっと思いつくだけでもかなりいます。
この先、世界的に有名になるデザイナーズブランドが生まれるかどうか。各国が注目しています。
ショーで使われた帽子も中国人の若手帽子デザイナーによるもの。
女性が活動し、活躍もするけれど
旧フランス租界の一角に、上海作家協会の事務所があります。
中国のベストセラー作家がよく出入りしています。
協会の会長を務めているのは王安憶さん。小説「長恨歌」で知られる女流作家です。上海の文壇のトップといえます。
中国語の名前は男女の区別がつきにくいことが多いうえ、「他(彼)」と「她(彼女)」の発音も同じ。中国の人も説明する際、わざわざ「女性」や「女流」とはつけず、「会長は○○さんです」という言い方をします。後になってから女性だとわかることがよくあります。
ちなみに、伝統的な書や中国画の分野でも上海でトップとされる人は二方とも女性だと聞いたことがあります。どちらも80歳を超えていますが、現役で活動しているそうです。
国宝の称号をもつ中国料理のシェフにも女性がいます。70を過ぎて引退したものの、今も多くの料理人たちから尊敬を集めています。
若い女性の経営者や会社の役員にもよく会います。
上海の常住人口は2400万人以上。そのうち上海戸籍を持つ人の男女比率は女性が少し上回りますが、特別に偏っているわけではありません。
「会長は女性なんですか?」と驚く私を見て、中国の人から「日本では女性のトップがそんなに珍しいんですか?」と聞き返されます。いや、そんなことはないのだけれど・・・・・・。
中国全土と世界中から夢と野心を抱く人が集まってくる上海では、男性も女性も中国人も外国人も、必死になってチャンスをつかまなければ頭ひとつ抜けることさえ難しい。
この街では多くの女性が活動し、活躍もしているけれど、そこに女性の「活用」という前提はないし、たぶんそんな発想もない。そもそも活用という中国語自体、あまり見かけないような(日中辞典では「利用」と訳されています)。
上海と東京を比べるとほとんどの物事において東京は進んでいます。成熟もしています。けれど、たまに、限定的にですが、上海が遥か先を走っているなあと思うときがあるのです。
アメリカTOMSのコーヒー(本物)が上海で飲めた!
先日、M50という上海随一のアートスポットで行われたイベント「Brew & Blend」をのぞいて来ました。
コーヒーとお酒をメインに飲食の露店やアートプロダクトのストアが集結。コーヒーやワインを片手に周囲のギャラリーに入ってアートを楽しむこともできます。
ブラブラ歩いていたら、TOMSのロゴが入ったコーヒーを発見。靴のTOMS? 本物?? TOMSのコーヒー?
TOMSはアメリカのシューズブランドです。一足売ったら一足支援という仕組みで、途上国に靴を贈る活動をしていることで知られています。よくよく見るとブースの片隅にスリッポンがディスプレイ。これは本物、でしょう。フェアトレードコーヒーの事業も手がけているそうで、ロサンゼルスにはカフェもあるとか。イベントのパンフレットにはスポンサー企業の一つとしてTOMSが紹介されていました。
まさか上海で。
TOMSといえばスリッポンシューズ。
ブラックと言った気がしたけどカプチーノ。他店が30元前後でコーヒーを販売するなか、ここは一杯15元と良心的。おいしかった。
スタッフもお客さんもインターナショナル。いつものことながら、どちらもイベントの楽しみ方が上手なのが上海です。
DJブースから音楽が流れます。M50はアクセスがあまりよくないのに、次から次へと人がやって来ます。
上海発の人気クラフトビール、リバーグも出店。アメリカ人アーティストがペイントしたというボトルもありました。
日本のから揚げも。人気で午後には売り切れてしまい、私が行った時間は再仕込み中でした。惜しい!
イベントは土日の2日間、夜10時まで行われました。
ワイン飲んで、ギャラリーに入って、生ビール飲んで、また別のギャラリーに入って・・・、何時間でもいられます。
上海では意外なものに出会うことが結構あります。そのうちブルーボトルコーヒーがさりげなくブース出したりしないでしょうか。
フランス・リヨンの天才シェフ、ニコラ・ル・ベック氏が上海に移住した理由
ついに、ご本人に会えました。
ニコラ・ル・ベック氏による「Bistro 321 Le Bec」と「Villa Le Bec」、All Aboutの記事をアップしました。取材余話などをこちらのブログで。
昨年の春頃、友人が「新華路にこんな素敵な建物ができている」とSNSに投稿した写真の片隅に、「Villa Le Bec」の文字を見つけました。
Le Bec、ル・ベック? どこかで聞いたことがある。気になって調べるうち、ミシュランの二つ星を獲得し、リヨンの天才シェフと呼ばれるニコラ・ル・ベック氏のことではないかと思いました。
ちょうどその1ヶ月前くらいに、彼のところで長年働いていた日本人の鷹野孝雄氏がリヨンに開いた自身の店でミシュランの星を獲得したことがニュースになったので、その記事でル・ベック氏の名前を見かけたのだと思います。
上海にはここ数年、海外の有名シェフや人気レストランが次々と進出しています。
が、一流の味とサービスを継続していくのがなかなか難しいというのが実情。
最初にシェフ本人が来て指揮をとっている間はいいのですが、しばらくすると、あれ?というようなお店になってしまうことが本当に多いのです。
もう10年以上も前のことになりますが、「TOKIO STYLE」という雑誌を編集していたときに、東京のフランス料理店を何軒も食べに行っては取材しました。たくさんの日本人シェフや、ジョエル・ロブション氏をはじめとするフランス人シェフたちにも会いました。彼らの料理から伝わってくる気迫や情熱は今でもよく覚えています。それに比べると上海のフランス料理店は有名店でも雰囲気はいいけれど、どこか物足りなさを感じてしまう。やっぱり東京のフレンチのほうが断然レベルが高いなあと思っていました。
昨年、初めて「Bistro 321 Le Bec」を訪れ、久しぶりにパッションにあふれた料理に感激しました。建物もインテリアもいい雰囲気。ただ、しばらく時間が経った後はどうなるかわからないと思い、少し様子を見ることにしました。
ところがオープンから時間が経つほど、いい評判を聞くようになってきました。
シェフの奥さんはフランスのお店で働いていた中国人で、フランスのお店を閉めて上海に移住しているらしいという話も耳に入るようになりました。つまり、支店ではなく上海が現在の彼の拠点。本人がほぼ毎日指揮をとっていることになります。
今回、色々なタイミングもよく、ご本人に取材をすることができました。
通常、海外の店が進出する場合は、当然ある程度スタッフを連れて来ます。ところが、シェフにフランスから何人連れて来たのかを聞いたら奥さんだけとのこと。
「文化も習慣も全く違う国で手探りで始めるから、リスクがあります。無責任に来てくださいとは言えませんよ」と、笑っていました。
館内のワインルームを案内してもらったとき、スタッフの中国人女性が目を輝かせてこう言いました。
「日本人はフランスワインが好きな人が多いんですよね? 一般のお客さんでも詳しい知識を持っている人がいて驚きます。本当にすごいことだと思います」。
また、「日本人はフランスにも日本にも、素晴らしいフランス料理を作れる人がいますよね」とは、シェフ。そしてそれはひとえに、フランスと日本は文化の交流が深いところで行われているからだと話していました。記事にも書きましたが、奥さんが中国人であること、そして以前から中国やシンガポールなどに行って料理で交流してみたいという思いがあったことが上海に移り住んだ理由だそうです。
このレストランでは、今後地元の料理人たちと交流するイベントなども企画していくそうです。フランスと中国の本当の交流はこれから始まるのであり、そのための大きな一歩をル・ベック氏が踏み出しているのでしょう。
それにしてもこの方、インタビューが終わった途端に撮影用の料理を自ら運んできたり、かと思ったらガーデンの手入れを始めたり、誰よりも動きが早く、まったくじっとしていない!
スタッフの教育やワインの輸入事業、インテリアも自身で手がけていて、寝る暇もなさそうですが、実に生き生きと仕事をしているのです。
シェフから伝わってくるのは自然や人間、文化への深い敬意。そして、誰にも触れられないほどの熱い情熱です。
ミシュラン二つ星の称号は中国ではかなり有効ですが、それでもフレンチの土壌がまだまだ成熟していない国です。言葉や習慣の違いも大きいはず。しかし、そんな苦労などどこ吹く風といった感じで、目指す道に向かって自身の能力を惜しみなく発揮し、走り続けていく姿勢に、なんだか身の引き締まる思いがしました。
これまでも直感に従って行動してきたという氏ですから、この先上海に何年いるのかはわかりません。しばらくしたら突然違う街に行ってしまう可能性だってなくはない。今、同じ時期に上海に住んでいるということが、私にとっては嬉しい偶然なのです。
上海では今、ミシュランガイドのプロジェクトが進行中です。
ル・ベック氏自身はまったく興味がなさそうでしたが(というより知らなかったようです)、満を持してまもなくオープンするグランメゾン「Villa Le Bec」も順調に走り出せば、恐らくここは上海で最高評価の星を獲得する大本命となるでしょう。
そして、このレストランの登場で、上海のフランス料理界全体はこの先ぐっとレベルが上がっていく予感がしています。
今後、フランス料理のシェフを志す中国人が、全土からこの店へやって来るかもしれません。
上海の人気ショッピングモールは、アート展の気合いが違う
先日、人気のショッピングモール「K11」内にある「chi K11美術館」へ、今期のアート展のオープニングイベントに行ってきました。モールの地下3階の大部分が展示スペースになっています。
今回のテーマは「影像館(Chinemathique)」。写真家の陳維(チェンイー)と映像作家の程然(チョンラン)、それぞれの作品展になります。
どちらのアーティストも複数のジャンルで活動しており、写真や映像、音楽、インスタレーションを組み合わせた作品が中心でした。
個人的に面白かったのは程然の作品。内モンゴル出身の1981年生まれのアーティストです。
「チューインガムペーパー」という作品には多くの人が足を止めていました。ドラムを叩く音とキング牧師の「I Have a Dream」という声をバックに、丸めた銀色のガムの紙くずがドラムの上で飛び跳ね、震え続ける様子を撮った映像作品です。
「まるで孤独な銀河のよう」との解説がありました。
展示の目玉は6分26秒のショートムービー「信(Always I Trust)」。
ある日、見知らぬ女性から程然自身に届いたスパムメールにインスピレーションを得て制作したものだそうです。
作品には有名ベテラン女優の劉嘉玲(カリーナ・ラウ、トニー・レオンの奥さん)が出演。未来と悲愴感が漂う都会の映像を絡ませながら、彼女が感情を押し殺した表情で「あなたは私のことをきっと覚えていないと思うけど」などと、淡々と語り続けます。絶望のにじむ声が印象的で、人の声もアートになるものだと思いました。
中国語と英語の字幕が出ます。映像を見せる空間もユニーク。
上海の若い人は現代アートを中心に、アートを見に行くのが大好き。何でもいいというわけではなく、ツボにはまるもの、はまらないものの差が結構はっきりしているように思います。
その点、K11で開催する企画はいつもポイントをおさえていて(若手有名コレクターがアート基金の代表です)、プロモーションも大々的。毎回のようにヒットをとばしています。
K11と人気を二分するショッピングモール「iapm」も、やはりアートへの取り組みに力を入れています。アートが集客の大きな要素になっているのでしょう。
イベントにはアート関係者に加えてK11のVIP客も招待され、大変な人でした。
現在、chi K11美術館で開催中の「影像館」。
展示は5月31日まで。モールの営業時間にあわせ、夜10時まで見られます。