今日も上海日和。

森麻衣佳のAll About公式ブログ。上海で起きていること、日々のこと。

フランス・リヨンの天才シェフ、ニコラ・ル・ベック氏が上海に移住した理由

 

ついに、ご本人に会えました。

ニコラ・ル・ベック氏による「Bistro 321 Le Bec」と「Villa Le Bec」、All Aboutの記事をアップしました。取材余話などをこちらのブログで。

 

allabout.co.jp

 

昨年の春頃、友人が「新華路にこんな素敵な建物ができている」とSNSに投稿した写真の片隅に、「Villa Le Bec」の文字を見つけました。

Le Bec、ル・ベック? どこかで聞いたことがある。気になって調べるうち、ミシュランの二つ星を獲得し、リヨンの天才シェフと呼ばれるニコラ・ル・ベック氏のことではないかと思いました。

ちょうどその1ヶ月前くらいに、彼のところで長年働いていた日本人の鷹野孝雄氏がリヨンに開いた自身の店でミシュランの星を獲得したことがニュースになったので、その記事でル・ベック氏の名前を見かけたのだと思います。

 

上海にはここ数年、海外の有名シェフや人気レストランが次々と進出しています。

が、一流の味とサービスを継続していくのがなかなか難しいというのが実情。

最初にシェフ本人が来て指揮をとっている間はいいのですが、しばらくすると、あれ?というようなお店になってしまうことが本当に多いのです。

 

もう10年以上も前のことになりますが、「TOKIO STYLE」という雑誌を編集していたときに、東京のフランス料理店を何軒も食べに行っては取材しました。たくさんの日本人シェフや、ジョエル・ロブション氏をはじめとするフランス人シェフたちにも会いました。彼らの料理から伝わってくる気迫や情熱は今でもよく覚えています。それに比べると上海のフランス料理店は有名店でも雰囲気はいいけれど、どこか物足りなさを感じてしまう。やっぱり東京のフレンチのほうが断然レベルが高いなあと思っていました。

 

昨年、初めて「Bistro 321 Le Bec」を訪れ、久しぶりにパッションにあふれた料理に感激しました。建物もインテリアもいい雰囲気。ただ、しばらく時間が経った後はどうなるかわからないと思い、少し様子を見ることにしました。

 

ところがオープンから時間が経つほど、いい評判を聞くようになってきました。

シェフの奥さんはフランスのお店で働いていた中国人で、フランスのお店を閉めて上海に移住しているらしいという話も耳に入るようになりました。つまり、支店ではなく上海が現在の彼の拠点。本人がほぼ毎日指揮をとっていることになります。

 

今回、色々なタイミングもよく、ご本人に取材をすることができました。

 

通常、海外の店が進出する場合は、当然ある程度スタッフを連れて来ます。ところが、シェフにフランスから何人連れて来たのかを聞いたら奥さんだけとのこと。

「文化も習慣も全く違う国で手探りで始めるから、リスクがあります。無責任に来てくださいとは言えませんよ」と、笑っていました。

 

館内のワインルームを案内してもらったとき、スタッフの中国人女性が目を輝かせてこう言いました。

「日本人はフランスワインが好きな人が多いんですよね? 一般のお客さんでも詳しい知識を持っている人がいて驚きます。本当にすごいことだと思います」。

また、「日本人はフランスにも日本にも、素晴らしいフランス料理を作れる人がいますよね」とは、シェフ。そしてそれはひとえに、フランスと日本は文化の交流が深いところで行われているからだと話していました。記事にも書きましたが、奥さんが中国人であること、そして以前から中国やシンガポールなどに行って料理で交流してみたいという思いがあったことが上海に移り住んだ理由だそうです。

このレストランでは、今後地元の料理人たちと交流するイベントなども企画していくそうです。フランスと中国の本当の交流はこれから始まるのであり、そのための大きな一歩をル・ベック氏が踏み出しているのでしょう。

 

それにしてもこの方、インタビューが終わった途端に撮影用の料理を自ら運んできたり、かと思ったらガーデンの手入れを始めたり、誰よりも動きが早く、まったくじっとしていない!

スタッフの教育やワインの輸入事業、インテリアも自身で手がけていて、寝る暇もなさそうですが、実に生き生きと仕事をしているのです。

 

シェフから伝わってくるのは自然や人間、文化への深い敬意。そして、誰にも触れられないほどの熱い情熱です。

ミシュラン二つ星の称号は中国ではかなり有効ですが、それでもフレンチの土壌がまだまだ成熟していない国です。言葉や習慣の違いも大きいはず。しかし、そんな苦労などどこ吹く風といった感じで、目指す道に向かって自身の能力を惜しみなく発揮し、走り続けていく姿勢に、なんだか身の引き締まる思いがしました。

 

これまでも直感に従って行動してきたという氏ですから、この先上海に何年いるのかはわかりません。しばらくしたら突然違う街に行ってしまう可能性だってなくはない。今、同じ時期に上海に住んでいるということが、私にとっては嬉しい偶然なのです。

 

上海では今、ミシュランガイドのプロジェクトが進行中です。

ル・ベック氏自身はまったく興味がなさそうでしたが(というより知らなかったようです)、満を持してまもなくオープンするグランメゾン「Villa Le Bec」も順調に走り出せば、恐らくここは上海で最高評価の星を獲得する大本命となるでしょう。

そして、このレストランの登場で、上海のフランス料理界全体はこの先ぐっとレベルが上がっていく予感がしています。

 

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 今後、フランス料理のシェフを志す中国人が、全土からこの店へやって来るかもしれません。